◆はじめに

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本記事では、企業買収の各種スキームについて、解説してきたいと思います。

なお、企業買収の基本的知識や進め方については、こちらの記事をご参照ください。

 

◆企業買収のスキーム

企業買収のスキームは大きく4つの類型に分けられます。

①株式取得(子会社化)

 対象企業の株式を取得し、子会社化する方法です。

②合併

 対象企業と合併し、1つの企業となる方法です。

③合弁会社設立

 対象企業と共同で、新しい会社(合弁会社)を設立する方法です。

④事業譲渡

 対象企業から特定の事業を譲り受ける方法です。

 

[①株式取得(子会社化)]

(1)株式会社の特徴

・株主と株主総会

 株式取得について解説する前に、株式会社の特徴について簡単に説明します。

 会社には事業の元手となる資本を提供する出資者が存在します。

 株式会社の出資者を株主といいます。

 株主は金銭その他の財産を出資し、対価としてその会社の株式を取得します。

 株式とは、その会社の構成員としての地位のことです。

 株式を取得することで、その会社の所有者となることができます。

 ただし、株式会社においては、原則として、会社の経営は取締役が行います。

 会社の所有者である株主は、会社の経営を行いません

 このように、会社の所有者と経営者が分かれていることを、所有と経営の分離といいます。

 では、株主は、自己の所有する会社の経営に関与できないのでしょうか?

 もちろんそんなことはありません。

 株主は、株主総会の一員として、会社の経営に携わることになります。

 株主総会は、株式会社の最高意思決定機関です。

 株主は、その一員として議決権等を行使し、意思決定に関与することができます。

 株主総会の重要な権限の1つに、取締役の選任があります。

 株主は、取締役選任に自己の意思を反映させることで、間接的に会社の経営に携わることができます。

 また、取締役がその責務を果たさず会社に害を与えた場合には、その責任を追及することができます(株主代表訴訟)。

 この訴訟は、一定以上の議決権を有していれば、株主総会を介さず、株主が直接提起することができます。

※理論的には、株主の地位と取締役の地位が分離されていますが、もちろん株主が取締役を兼ねることは禁止されていません。家族経営の企業の場合、株主と取締役が一致していることが多く、その場合、現実的には、所有と経営が一致することになります。

(2)議決権の大きさ(持株比率)

株主は、株主総会で議決権を行使することで、会社の経営に携わることができます。

そして、それぞれの株主が有している議決権の大きさは、所有している株式の数(=出資した額)に比例します。
なお、1株につき1つの議決権があるとする原則を、一株一議決権の原則といいます

Aさんが20万円、Bさんが70万円、Cさんが10万円を出資し、株式会社法優を設立したとします。
設立時に100株の普通株式を発行したとすると、Aさんが20株、Bさんが70株、Cさんが10株を取得します。
議決権の大きさは所有する株式の数に応じるので、株主総会におけるAさん、Bさん、Cさんの議決権の比率は、Aさんが2、Bさんが7、Cさんが1となります。

株主総会の決議の多くは、出席した株主の議決権の過半数が賛成することで可決されます。

株式会社法優においては、Bさんさえ賛成すれば多くの議案は可決され、逆にBさんが反対している限り可決されないことになります。

※株式会社は違う内容の株式を複数種発行することができ、その1つとして、議決権を有しない株式を発行することができます。当然ながら、議決権を有しない株式をどれだけ持っていても、株主総会で議決権を行使することはできませんが、これは一株一議決権の原則に違反しません。

 

(3)株主の権利

株主の権利は、共益権自益権に分けられます。

共益権とは、株主が会社の経営に携わり、あるいは、その経営を監督、是正する権利のことです。
これまで見てきた、株主総会の一員として会社の経営に関与する権利(議決権や提案権、総会招集権)や株主代表訴訟の提起権などが共益権にあたります。

これに対して、自益権とは、株主が株式会社から経済的利益を受ける権利のことです。剰余金の配当を受ける権利(=配当金を受ける権利)などがそれにあたります。

 

(4)株式取得の概要

株式取得は、対象企業の株式(=議決権)を取得することで、支配権を獲得する方法です。

株式取得の方法は、大きく2つに分けられます。

 

ア 既存の株主から買い取る方法

既存の株主と株式譲渡契約を締結し、株式を譲り受ける方法です。

原則として、株主は自由に株式を他者に譲渡することができ、その際に、対象企業の承認を得る必要はありません(例外については後述します。)。

株主との合意だけで株式を取得することができるため、比較的容易な手段といえます。

イ 対象企業から株式の発行を受ける方法

対象企業と新株引受契約を締結し、株式を発行してもらい、その株式を引き受ける方法です。

新株の発行、自己株式の処分※1、新株予約権の発行※2がありますが、いずれの場合にも、株主総会(または取締役会)の決議により承認される必要があります。

※1:自己株式とは、発行済みの株式のうち、株式会社自身が所有している株式のことです。
これを他者に交付することを自己株式の処分といいます。

※2:新株予約権とは、あらかじめ定められた期間内に、あらかじめ定めた価格で、当該会社の株式を取得する権利のことです。

 

(5)株式取得の手続き

ア 既存の株主から買い取る方法

原則として、株主と株式譲渡契約を締結するのみで、その株式を譲り受けることがでます。

ただし、会社によっては、株式に譲渡制限が課されている場合があります。

その場合、会社の承認(取締役会非設置会社の場合は株主総会の承認、取締役会設置会社の場合は取締役会の承認)を得る必要があります。

譲渡制限の有無は登記上で確認することができます。

株券が発行されている場合、株券にもその旨記載されています。

事前に確認することが重要です。

なお、いずれの場合においても、契約成立後に株主名簿の名義書換を行う必要があります。また、株券発行会社の場合には、株券の交付を受けることも必要となります。

イ 対象企業から株式の発行を受ける方法

株式の発行を受ける場合、まず対象企業と新株引受契約を締結します。

株主から買い取る場合と異なり、対象企業と契約を締結する点にご注意ください。

続いて、株主総会(または取締役会)の承認を得る必要があります。

株主総会、取締役会のいずれの承認が必要かは、発行済み株式の種類や、これから発行する株式の価格などにより異なります。

後のトラブルを避けるため、弁護士に必要な手続きを確認することが望ましいです。

 

(6)取得する株式数

株式を多く取得するほど、議決権の大きさが増し、対象企業に対する影響力が強くなります。

一方で、多くの株式を取得しようとすると、その分多額の対価が必要となります。

対象企業に対する影響力が強くなる分、対象企業が損失を出した場合に受ける影響も大きくなります。

また、反対株主がいる場合、その抵抗を退け、株式を取得していく必要があります。

そのため、株式取得を進める場合、対象企業とどのよう関係を構築したいか、対象企業の財政状態に問題がないか、どれくらいの費用と手間をかけられるか、他の株主からどの程度の反発が予想されるかをあらかじめ確認し、目標とする持ち株比率を設定する必要があります。

 

ア 過半数の株式を取得する(=子会社化する)

発行済み株式の過半数に相当する株式を取得することで、対象企業を子会社とすることができます。

前述のとおり、議決権の過半数を有している場合、取締役の選任を含め、株主総会の多くの議案を単独で可決させることができます。

 

イ 3分の2の株式を取得する

株主総会の決議の中には、通常の決議よりも可決要件が加重されているものがあります(特別決議)。

たとえば、事業譲渡の承認、組織変更・組織再編の承認決議など、会社に重大な影響を与える事項が特別決議の対象となります。

特別決議を可決させるには、出席した株主の議決権数の3分の2以上の賛成が必要となります(定款により要件を加重させることができます)。

発行済み株式の3分の2以上の株式を取得すれば、この特別決議を単独で可決させることができます。

株式交換という手法を用いて、他の株主を排除して強制的に排除し、100%子会社化することもできます。

 

ウ すべての株式を取得する(=完全子会社化する)

発行済み株式のすべてを取得することで、対象企業を100%子会社とすることができます。

他に株主はいないので、自由に対象企業を経営していくことができます。

過半数(あるいは3分の2以上)の株式を取得していていれば、株主総会の多くの決議事項を単独で可決させることができます。

しかし、少数派となった株主も、株主総会決議の瑕疵を争うなどして、対抗する余地が残されています。

そのため、特に敵対的な少数派株主がいる場合、慎重に対応する必要があります。

100%子会社とすることで、他の株主への配慮が不要となります。

一方で、対象企業が赤字を計上した場合などは、その影響もすべて受けることになるなどのリスクもあります。

 

エ 50%に満たない株式を取得する

企業買収の検討を始めた段階では、対象企業の情報が少なく、いきなり子会社化することは難しいという場合があります。

そのような場合には、まず少ない株式を取得し、経営に携わりはじめ、徐々に持株比率を上げていくという方法もあります。

株主として経営に携わることで、より深い情報を得ることができます。

友好的な関係下では使うことは多くはありませんが、計算書類の閲覧請求権も認められています。

また、過半数に満たないとしても、一定程度の株式を有していれば、実務上は、対象企業の経営に大きな影響力を及ぼすことができます。

 

(7)株式取得のメリット

・企業買収を段階的に進めることができるため自由度が高い。
最初は少ない株式を取得し、徐々に持株比率を増やすことが可能。

・持株比率が増えれば、単独で事業譲渡、吸収合併などを進めることも可能。

・特に、既存株主からの譲渡を受ける場合、手続きが簡便。

・対象企業が子会社として存続するため、従来の経営を維持しやすい。

・すべての株式を取得しなくとも子会社化し、支配権を得ることができる。

 

(8)株式取得のデメリット

・子会社化した場合、簿外債務を引き継ぐおそれがある。

・対象企業が存続するため、完全に統合するまでに時間がかかる。

・すべての株式を取得することが困難な場合がある。

 

 

[②合併]

 

(1)合併の概要

合併とは、2つの企業が1つの企業となることを指します。

合併には吸収合併新設合併の2つがあります。

吸収合併は、対象企業の法人格が消滅し、そのすべての資産、負債を引き継ぎます。対象企業全体を支配下に置くという点では、株式取得による子会社化と共通していますが、対象企業の法人格が完全に消滅する点が異なります。

新設合併は、貴社と対象企業の両方とも法人格が消滅し、そのすべての資産、負債を引き継いだ新しい会社を設立します。会社の設立を伴うため、吸収合併よりも手続きが煩雑になります。

(2)合併の手続き

実務上、吸収合併を用いることの方が多いため、ここでは吸収合併の手続について解説します。

合併を行うためには、まず合併契約を締結します。なお、合弁契約の締結に至るまでに、基本合意書の締結、デューデリジェンス等を行う必要があります。詳細についてはこちらの記事をご参照ください。

続いて、株主総会の承認を得る必要があります。

この場合の決議は、特別決議であり、出席した株主の議決権数の3分の2以上の賛成を得る必要があります。

反対する株主が多い場合、承認を得られない場合があります。

なお、合併が認められた場合、反対株主は株式の買取を請求することができます。

また、債権者に異議を述べることができる債権者異議手続(債権者保護手続ともいいます)を行います。

なお、合併には、このほかにも事前開示書面の備置等、必要な手続きが多く存在します。重大な手続上の不備は合併の無効原因となる可能性があります。

特に、反対株主がいる場合、対抗する足掛かりを与えることになるため注意が必要です。

 

(3)合併のメリットとデメリット

合併を行った場合、対象企業が消滅し、1つの企業となります。

これが合併のメリットにも、デメリットにもなりえます。

メリットは、1つの企業となることで統合の目的を早期に実現できることです。

株式取得の場合、対象企業は子会社として存続するので、完全に一体となって事業を展開できるようになるまでには時間を要します。

一方で、デメリットとしては、早期に統合を実現するために、現場に過重な負担をかす可能性がある点です。

企業買収の手段として合併を選択する際には、どれくらいのスピード感をもって統合の目的を実現したいのか、現実的にそれが可能かを十分に検討することが重要です。

 

[③合弁会社設立]

 

(1)合弁会社設立の概要

対象企業と合弁契約を締結し、合弁会社を設立します。

合弁契約に定めた条件に従い、対象企業と共同で合弁会社を運営し、合弁会社があげた利益を分配します。

 

(2)合弁会社設立の手続き

合弁会社を設立するには、対象企業と合併契約を締結する必要があります。

前述した合併と異なり、合弁会社の設立は会社法上の組織再編ではありません。

そのため、株主総会の特別決議を得る必要はありません。

ただし、合弁会社の設立方法として、組織再編の1つである新設分割を用いる場合など、一定の場合には、株主総会の特別決議を得なければいけません。

 

(3)合弁会社設立のメリットとデメリット

合弁会社を設立するメリットは、貴社と対象企業のそれぞれの長所(技術力、商流等)のうち、必要なものだけを掛け合わせた新設会社を設立することで、効率的にシナジーを発揮できることです。

対象企業全体を支配下におく株式取得による子会社化や合併とは異なり、対象企業の長所だけ獲得することができます。

子会社化や合併と異なり対象企業そのものを支配下におくわけではないので、対象企業やその株主の賛同を得られやすいというメリットもあります。

一方でデメリットとしては、新設する合弁会社を対象企業と合同で運営していくことになるため、設立後に経営権をめぐる対立が起きやすいことです。

また、共同して運営するなかで、ノウハウ、企業秘密が流出する危険性もあります。

 

 

[④事業譲渡]

 

(1)事業譲渡の概要

対象企業と事業譲渡契約を締結し、特定の事業を買い受けます。

(2)事業譲渡の手続き

事業譲渡も手続きは、合併の手続きに似ています。

事業譲渡契約を締結し、株主総会の承認(特別決議)を得る必要があります。

反対株主に株式の買取請求権が認められる点も合併と同様です。

ただし、合併と異なり、債権者異議手続きはありません。

 

(3)事業譲渡のメリットとデメリット

事業譲渡のメリットは、対象企業から、必要な資産、負債だけを買収することができる点です。

対象企業のうち、不採算事業やシナジーの少ない事業を引き継がないことができます。

デメリットとしては、個々の資産、負債について、対抗要件の具備など移転手続をとる必要があり、その分手間がかかります。

 

 

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弁護士 小林幸平