◆はじめに

フランチャイズビジネスに関しては、中小小売商業振興法、不正競争防止等、様々な法律との関係が問題となりますが、独占禁止法との関係も問題となります。

フランチャイズ・ガイドラインは、独占禁止法に関する指針ですが、19年ぶりに改正されました。

そこで、本記事では、フランチャイズ事業を行っている本部及び加盟店を対象に、フランチャイズ・ガイドラインの改正について説明をします。

 

こちらの記事もあわせてご参照ください。
中小小売商業振興法施行規則改正のポイント – 弁護士法人 法優法律事務所 事業サポート (foryou-law.com) 

 

◆フランチャイズ・ガイドラインとは

フランチャイズ・ガイドラインとは、正式名称は、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」という指針で、フランチャイズビジネスにおいて本部と加盟店との間で独占禁止法上の問題が指摘されることが少なくないことから、公正取引委員会が、本部と加盟店との関係において、どのような行為が独占禁止法上問題となるかを具体的に明らかにした指針のことをいいます。

公正取引委員会は、昭和58年9月20日に、フランチャイズ・ガイドラインを公表し、平成14年4月24日、平成22年1月1日及び平成23年6月23日に改正されていました。

令和3年4月28日に行われた改正(以下「令和3年改正」といいます。)は、最後に改正がなされた平成23年6月23日から、19年ぶりの改正になります。

 

◆フランチャイズ・ガイドライン改正の背景 

令和3年改正が行われる際、公正取引委員会は、「(令和3年1月29日)「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」の改正(案)に対する意見募集について」(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/jan/210129fcglpc.html)を公表しています。

 

その中で、令和3年改正の背景について触れられていますので、以下、引用します。

 

公正取引委員会は,フランチャイズ・システムを用いて事業活動を行うコンビニエンスストアの本部と加盟者との取引等について,24時間営業をはじめとして,これまでのコンビニエンスストアの本部と加盟者との在り方を見直すような動きが生じていることなどを受けて,両者の取引の実態を把握すべく,我が国に所在する大手コンビニエンスストアチェーンの全ての加盟者を対象とした初めての大規模実態調査を行い,令和2年9月に調査報告書を公表しました(注)。当該調査の結果,コンビニエンスストアの本部と加盟者との取引においては,今なお多くの取り組むべき課題があることが明らかとなったため,公正取引委員会は,当該課題を踏まえて,別紙のとおりフランチャイズ・ガイドラインを改正することを予定しています。

つきましては,当該改正箇所について,下記のとおり関係各方面から意見を募集します。

(注)「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について」

      https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/sep/200902_1.html

 

上記の記載からわかるように、令和3年改正の背景には、コンビニエンスストアの本部と加盟店の関係で、問題が生じることが多かったという事情があったことがわかります。

 

〇コンビニエンスストアの本部と加盟店でどのような問題が生じたか

 

問題が生じたことが、世間的に話題となったコンビニエンスストアチェーンは、セブン-イレブンです。

 

セブン-イレブンに関しては、以下のような出来事が、世間の注目を集めました。

 

大阪府大阪市の加盟店のオーナーが、人材不足を理由に、本来24時間営業であるところ、営業時間を19時間に短縮しました。
本部は、加盟店のオーナーの判断で、営業時間を短縮したことは、フランチャイズ契約に違反すると主張しました。
同店舗では、人材不足の影響で、24時間営業を継続するためには、オーナーが長時間働かなければならなくなったというような事情もあったようです。
本部が、加盟店に対し、フランチャイズ契約の解除や店舗の引渡しを求め提訴し、加盟店が、フランチャイズ契約の解除の無効を争うという裁判にまで発展しています。
本記事執筆時である令和3年7月30日現在、裁判は係属中で、判決を待たずに、加盟店オーナーが運営する店舗の駐車場に、本部が、仮店舗でセブン-イレブンの店舗をオープンするという事態となりました。

 

◆フランチャイズ・ガイドライン改正の内容

 

フランチャイズ・ガイドラインの改正の内容の詳細については、以下をご参照ください。

 

「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」新旧対照表https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/apr/kitori/02shinkyu.pdf

 

本記事では、令和3年改正の中で、特に重要と思われる内容を紹介します。

 

〇本部の加盟店募集について

まずは、 本部が、加盟店を募集する段階、つまり、フランチャイズ契約の締結に至るまでの過程で、どのような事項に気を付けるべきかということについての改正内容を紹介します。

 

(フランチャイズ契約の中途解約の条件に関する記載の新設)

 令和3年改正により、フランチャイズ契約の中途解約の条件について、以下の文言が追加されています(引用中下線部が改正部分)。

 

契約の期間並びに契約の更新,解除及 び中途解約の条件・手続に関する事項(注2)

 

(注2) フランチャイズ契約において,中途解約の条件が不明確である場合,加盟に当たって加盟希望者の適正な判断が妨げられるだけでなく,加盟後においても,加盟者はどの程度違約金を負担すれば中途解約できるのか不明であるために解約が事実上困難となることから,本部は中途解約の条件をフランチャイズ契約上明確化するとともに,加盟者募集時に十分説明することが望ましい。

 

フランチャイズ契約においては、中途解約に関するトラブルが多いものです。

そのため、中途解約の条件を明確化することが望ましいとされています。

 

(ドミナント出店に関する取決めの明確化)

令和3年改正により、ドミナント出店に関する取決めの明確化について、以下の文言が追加されています(引用中下線部が改正部分)。

 

加盟後,加盟者の店舗の周辺の地域に,同一又はそれに類似した業種を営む店舗を本部が自ら営業すること又は他の加盟者に営業させること(以下「ドミナント出店」という。)ができるか否かに関する契約上の条項の有無及びその内容並びにこのような営業が実施される計画の有無及びその内容(注3)

 

(注3) 加盟者募集に際して,加盟希望者の開業後のドミナント出店に関して,配慮を行う旨を提示する場合には,配慮の内容を具体的に明らかにした上で取決めに至るよう,対応には十分留意する必要がある。

 

ドミナント出店がなされると、同一チェーンで顧客を取り合う関係になる可能性があります。

フランチャイズチェーンにおいて、小規模であればドミナント出店はあまり問題となりませんが、コンビニエンスストアのような大規模なフランチャイズチェーンとなるとドミナント出店が問題となるケースが多くあります。

 

(売上予測に関する説明の明確化)

 令和3年改正により、売上予測に関する説明の明確化について、以下の文言が追加されました(引用中下線部が改正部分)。

 

加盟者募集に際して,予想売上げ又は予想収益を提示する本部もあるが,これらの額を提示する場合には,類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実,合理的な算定方法等に基づくことが必要であり,また,本部は,加盟希望者に,これらの根拠となる事実,算定方法等を示す必要がある(注4)

 

(注4) 加盟希望者が出店を予定している店舗における売上げ等を予測するものではないという点で厳密な意味での予想売上げ又は予想収益ではなく,既存店舗の収益の平均値等から作成したモデル収益や収益シミュレーション等を提示する場合は,こうしたモデル収益等であることが分かるように明示するなどした上で,厳密な意味での予想売上げ等ではないことが加盟希望者に十分に理解されるように対応する必要がある。
なお,中小小売商業振興法は,同法の対象となる本部に対して,周辺の地域の人口,交通量その他の立地条件が類似する店舗の直近の三事業年度における収支に関する事項について情報開示・説明義務を課しているところ,予想売上げ等ではないことが加盟希望者に十分に理解されるように対応する必要がある。

 

売上予測に関しても、フランチャイズ契約において、トラブルとなるケースは多い事項です。

本部としては、売上予測はあくまでも参考程度に示すものであるという認識で示している場合でも、加盟希望者に、重要な事項として受け取られるケースが多いものです。

このように、本部と加盟店との間で、売上予測の捉え方が異なると、後々、加盟店から、本部に対し、本部から受けた売上予測のような売上があがらないということを理由としてトラブルに発展する可能性があります。

そこで、売上予測に関する説明を明確に行うことが望ましいといえます。

 

(営業時間や臨時休業に関する記載の追加)

 令和3年改正により、営業時間や臨時休業に関する記載として、以下の文言が追加されました(引用中下線部が改正部分)。

 

加盟者募集に際して,本部が営業時間や臨時休業に関する説明をするに当たり,募集する事業において特定の時間帯の人手不足,人件費高騰等が生じているような場合等その時点で明らかになっている経営に悪影響を与える情報については,加盟希望者に当該情報を提示することが望ましく,例えば,人手不足に関する情報を提示する場合には,類似した環境にある既存店舗における求人状況や加盟者オーナーの勤務状況を示すなど,実態に即した根拠ある事実を示す必要がある。

 

前述のように、コンビニエンスストアチェーンにおける本部と加盟店とのトラブルが、令和3年改正の背景にあることから、営業時間や臨時休業など、人材の確保に関する情報については、本部が加盟希望者に提示することが望ましいとされています。

 

(ロイヤルティの算定に関する記載の追加)

 令和3年改正により、ロイヤルティの算定に関する記載として、以下の文言が追加されました(引用中下線部が改正部分)。

 

ロイヤルティの算定方法に関し,必要な説明を行わないことにより,ロイヤルティが実際よりも低い金額であるかのように開示していないか。例えば,仕入れた全商品の仕入原価ではなく実際に売れた商品のみの仕入原価を売上原価(異なる名称であってこれと同一の意味で用いられるものを含む。以下同じ。)と定義し,売上高から当該売上原価を控除することにより算定したものを売上総利益(異なる名称であってこれと同一の意味で用いられるものを含む。以下同じ。)と定義した上で,当該売上総利益に一定率を乗じた額をロイヤルティとする場合(注5)当該売上総利益の定義について十分な開示を行っているか,又は定義と異なる説明をしていないか。 

(注5) この場合,廃棄した商品や陳列中に紛失等した商品の仕入原価(以下「廃棄ロス原価」という。)は,「(売上高-売上原価)×一定率」で算定されるロイヤルティ算定式において売上原価に算入されず,算入される場合よりもロイヤルティの額が高くなる。

 

ロイヤルティに関する事項も、本部と加盟店との間でトラブルになるケースが多い事項です。

特に算定方法に関しては、本部と加盟店との間で認識の相違が生じてしまうとトラブルが生じてしまう可能性がありますので、ロイヤルティの算定方法を明確にしておくことは重要であるといえます。

 

〇フランチャイズ契約締結後の本部と加盟店との取引について

 次に、フランチャイズ契約締結後の本部と加盟店との取引に関して、令和3年改正で、以下のような改正が行われています。

 

(仕入数量の強制に関する記載の追加)

令和3年改正により、仕入数量の強制に関する記載について、以下の文言が追加されています(引用中下線部が改正部分)。

 

本部が加盟者に対して,加盟者の販売する商品又は使用する原材料について,返品が認められないにもかかわらず,実際の販売に必要な範囲を超えて,本部が仕入数量を指示すること又は加盟者の意思に反して加盟者になり代わって加盟者名で仕入発注することにより,当該数量を仕入れることを余儀なくさせること。

 

フランチャイズのビジネスモデルは、様々考えられますが、本部が原材料を加盟店に販売し、その際、原材料の金額を、仕入金額よりも高く設定し、利益を得るというビジネスモデルも存在します。

この場合、本部は、加盟店に、原材料を売れば売るほど利益がでる形となっていますので、本部はできるだけ多く加盟店に原材料を販売しようと考えるケースもあります。

加盟店の売れ行きが好調で、多くの原材料を仕入れても捌くことができれば問題ありませんが、加盟店での売れ行きが不調であるにも関わらず原材料を多く仕入れてしまうと、廃棄が増えることにより加盟店の利益が減り、本部だけが儲かる形になってしまいます。

フランチャイズにおいては、本部と加盟店がともに利益を出し、成長していくことが重要ですので、本部が、加盟店に対し、必要の無い原材料を販売しないようにすることが望ましいといえます。

 

(見切り販売に関する記載の追加)

令和3年改正により、見切り販売に関する記載について、以下の文言が追加されています(引用中下線部が改正部分)。

 

実際に売れた商品のみの仕入原価を売上原価と定義し,売上高から当該売上原価を控除することにより算定したものを売上総利益と定義した上で,当該売上総利益がロイヤルティの算定の基準となる場合において,本部が加盟者に対して,正当な理由がないのに,品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限(注8)し,売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること(注9)

 

(注8) 見切り販売を行うには,煩雑な手続を必要とすることによって加盟者が見切り販売を断念せざるを得なくなることのないよう,本部は,柔軟な売価変更が可能な仕組みを構築するとともに,加盟者が実際に見切り販売を行うことができるよう,見切り販売を行うための手続を加盟者に十分説明することが望ましい。

 

(注) コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては,売上高
から売上原価を控除して算定される売上総利益をロイヤルティの算定の基準としていることが多く,その大半は,廃棄ロス原価を売上原価に算入しない方式を採用している。この方式の下では,加盟者が商品を廃棄する場合には,廃棄ロス原価を売上原価に算入した上で売上総利益を算定する方式に比べて,ロイヤルティの額が高くなり,加盟者の不利益が大きくなりやすい。 

 

コンビニエンスストアにおいては、見切り販売を行うことができないことによる廃棄の増加が問題となっていました。

加盟店が、見切り販売を行うように出来るようにすることにより、廃棄が減り、売上げが上がることが期待できます。

また、食品ロスを減らすことにもつながり、地球環境の保護にもつながることになります。

 

(営業時間の短縮に関する記載の追加)

令和3年改正により、営業時間の短縮に関する記載について、以下の文言が追加されています(引用中下線部が改正部分)。

 

本部が,加盟者に対し,契約期間中であっても両者で合意すれば契約時等に定めた営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず,24 時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望する加盟者に対し,正当な理由なく協議を一方的に拒絶し,協議しないまま,従前の営業時間を受け入れさせること。

 

この記載の追加についても、コンビニエンスストアを念頭に置いたものといえます。

契約期間中であっても本部と加盟店で合意をすれば、営業時間の短縮が認められるとの条項があるにも関わらず、本部が、協議に応じないとなると、当該条項は絵に描いた餅になってしまいます。

そのため、条項を規定した以上、本部は、営業時間の短縮について、真摯に協議を行うことが望ましいといえます。

 

(ドミナント出店に関する記載の追加)

 令和3年改正により、ドミナント出店に関する記載について、以下の文言が追加されています(引用中下線部が改正部分)。

 

ドミナント出店を行わないとの事前の取決めがあるにもかかわらず,ドミナント出店が加盟者の損益の悪化を招く場合において,本部が,当該取決めに反してドミナント出店を行うこと。また,ドミナント出店を行う場合には,本部が,損益の悪化を招くときなどに加盟者に支援等を行うとの事前の取決めがあるにもかかわらず,当該取決めに反して加盟者に対し一切の支援等を行わないこと。

 

ドミナント出店についても、本部と加盟店との間でトラブルとなる可能性が高い事項になります。

そのため、ドミナント出店に関する事項については、後々疑義が生じないよう、明確に条項を規定しておくことが望ましいといえます。

 

◆まとめ

以上、フランチャイズ・ガイドラインの改正について、説明をしました。

令和3年改正では、コンビニエンスストアを念頭に置いた改正点も多いですが、コンビニエンスストア以外のフランチャイズチェーンでも対応が必要となるケースがあります。

そのため、フランチャイズ本部のご担当者様は、令和3年改正をご確認いただければと存じます。詳しい改正内容につきましては、公正取引委員会のHP(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/apr/210428fcgl.html)をご確認いただければと存じます。

また、令和3年改正を機会に、フランチャイズ契約書、法定開示書面又はフランチャイズ本部での内部マニュアルなどの見直しをお考えのフランチャイズ本部の法務ご担当者様がいらっしゃいましたら、弊所までご連絡をいただければと存じます。

 

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小林は一部上場企業からベンチャー企業まで、フランチャイズ事業のサポート経験がありますので、フランチャイズ事業でご相談があります企業様はお気軽に弊所までご連絡ください。
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弁護士 小林幸平